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けんのよんくんし
剣の四君子・日本名婦伝
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《剣の四君子・日本名婦伝(けんのよんくんし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 150,635 字 · 306 頁
と、背後の仄暗い隅で。
誰か、人の気はいがするようだった。そしてバチバチと炭火の刎ねる音がした。
樺山中佐は、卓上の地図に寄せていた眼をちらと振向けて、
「誰だ。――弁蔵か」
「はい。小使でございます」
老小使の弁蔵は、炭バケツを下に置いて、姿勢を改めていたが、それきり何も云われないので、また、大火鉢の薬鑵へ水をさしたり、番茶道具を運んで来たり、物静かに用をしていた。
小使の弁蔵爺やは、将軍がまだ高知県少参事だの台湾総督参謀だのを、転々と歴任していた頃から、馬丁として家庭に仕えて来た忠実者だったが、もう年を老って、馬の先にも駈けていられなくなったし、機密の多い司令部付の小使として使うには、安心できる人間なので、去年将軍が台湾から熊本へ赴任して来た時から鎮台の方で雇うことに改めてやった者である。
だから弁蔵爺やだけには、幕僚たちも何の警戒の必要をも感じなかった。とはいえ、その晩の協議は、作戦上重大な機密でもあるので、彼がそっと出入りするごとに冷たい外気が入口から流れこんで蝋燭の灯がゆれると、そのたびごとに幕僚たちは知りながらも、つい後ろへ眼をくばった。