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けんのよんくんし
剣の四君子・日本名婦伝
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《剣の四君子・日本名婦伝(けんのよんくんし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 150,635 字 · 306 頁
雪のなかにいている様子が苦しげに見えた。
「あれっ、おまえは、爺やではありませんか」
彼女にはすぐ分った。多年、家に召使っていた弁蔵である。弁蔵もその声を聞くと、
「奥さまか」
と、大きな眼をしてさけんだ。
勿体ない、勿体ない、と振いて肯かない爺やを無理に肩に援けて、彼女は雪の石段をようやく上がって行った。
小銃の弾は、弁蔵の腰か太股にあたったらしい。子どものように痛い痛いとさけぶのを、肩越しに、
「何です、鎮台の一員のくせに」
と、玖満子は叱りながら負って来た。
司令部の前に立群れていた人々は驚いて、彼女と弁蔵を取囲んだ。彼女は医官を呼びにやって、取敢えず弁蔵を小使室に寝かせた。
一時は疑われたが、幸いに弁蔵は口がきけるので、その口述に依って、誤解はすぐ闡明になった。
まったく岡本軍曹の勘ちがいで、弁蔵が小使勤務の隙を見て、鎮台から出て行こうとしたのは、玖満子夫人の身を誰よりも心配していたからであった。旧主を思う情の余り、将軍にも無断で、その邸まで一走り行って安否を糺して来るつもりだったのである。
与倉中佐から理を聞いて、谷将軍も小使室の外まで来た。