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けんのよんくんし

剣の四君子・日本名婦伝

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《剣の四君子・日本名婦伝(けんのよんくんし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 150,635 字 · 306 頁

青空文庫

あまりの寂けさに、床へ泣仆れた産婦の妹の幹子は、袂を口にいれたまま、咽び出ようとするものを噛みころしていた。鶴子は水のような声で、

「幹子……幹子……」

と、呼んでいた。

答えれば、わっと泣声も出てしまうであろう。幹子は起てなかった。返辞もできなかった。

「なんですか」

玖満子がたずねると、

「主人の御病室は? ……」

「中庭の向う側の病棟です。燈が見えませんか」

「……見えません。おそれ入りますが、そこの見える窓をお開けしてくださいませ」

玖満子は、うなずいて歩み寄った。窓がひらく。彼方の病棟の燈が見える。

軍医正の影がそこの扉の内へ入った。扉は開かれたままとなり、室内と廊下にかけて、粛然と無言の影が整列していた。すこし離れて、枕頭に立っている影は、谷将軍らしい。――良人の将軍は、逝く良人の枕元に、妻の玖満子は、遺る妻の寝床のそばに。

――遠く、撃ち交わす小銃のひびきが谺する。やがて熄む。一瞬の寂寞が夜をつつむ。

すると、彼方の病室で、

「日本、帝国っ……日本男児っ、……ば、ば、ばん、ざい」

語音は異様であったが、はっきり聞えた。与倉中佐が、最期のひく息でさけんだのである。