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みみずのたわこと
みみずのたはこと
徳冨 健次郎
Read みみずのたはこと (みみずのたわこと) by 徳冨 健次郎 (とくとみけんじろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 265,437 characters · 530 screens
此辺を分倍河原と云って、新田義貞大に鎌倉北条勢を破った古戦場である。玉川の渡を渡って、また十丁ばかり、長堤を築いた様に川と共に南東走する低い連山の中の唯有る小山を攀じて百草園に来た。もと松蓮寺の寺跡で、今は横浜の某氏が別墅になって居る。境内に草葺の茶屋があって、料理宿泊も出来る。茶屋からまた一段堆丘を上って、大樹に日をよけた恰好の観望台がある。二人は其処の素床に薄縁を敷いてもらって、汗を拭き、茶をのみ、菓子を食いながら眼を騁せた。
東京近在で展望無双と云わるゝも譌ではなかった。生憎野末の空少し薄曇りして、筑波も野州上州の山も近い秩父の山も東京の影も今日は見えぬが、つい足下を北西から南東へ青白く流るゝ玉川の流域から「夕立の空より広き」と云う武蔵野の平原をかけて自然を表わす濃淡の緑色と、磧と人の手のあとの道路や家屋を示す些の灰色とをもて描かれた大きな鳥瞰画は、手に取る様に二人が眼下に展げられた。「好い喃」二人はかわる/″\景を讃めた。
やゝ眺めて居る内に、緑の武蔵野がすうと翳った。時計をもたぬ二人は最早暮るゝのかと思うた。蒸暑かった日は何時しか忘られ、水気を含んだ風が冷々と顔を撫でて来た。