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たいらのまさかど
平の将門
吉川 英治
「小説公園」六興出版社、1950(昭和25)年新春号~1952(昭和27)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 232,193 字 · 463 页
秋水蕭殺
うち一艘には、桔梗と女童や女房たちが乗り、べつの二艘には、十余名の郎党を乗せた。そして芦ヶ谷の入江から、海のような湖上へと、先に、逃げのびて行けと、いいつけた。
彼の妻子をのせた三艘の苫船は、なるべく、葦や葭の茂みを棹さして、臆病な水鳥のように、まる一昼夜を、北へ北へ逃げ遡り、やがて広河の江のあたりに、深く船影をひそめて、ひとまず、そこを隠れ場所としていた。
将門は、陸路をたどって、妻子の落着きを、見とどけた後。
「わずかの間の船住居だぞ。長くは、待たさぬ。つつがなく、病気をせぬよう、いてくれよ」
遠くから祈った。その辺りの秋の蘆荻にたなびく霧の寂寞に惜別の眼を、焼きつけた。そして彼自身は、手勢をひきつれて陸閑岸(下結城村)附近の山中へかくれ込んだのであった。
秋水蕭殺
じとじとと、長い秋雨がつづいた。
山蔭に、横穴を掘り、穴の口に、丸木を組み、木の皮で屋根を葺いたような小屋が、彼の当分の隠れ家だった。
同じような物を、その附近に、土蜂の巣のように作って、主従六、七十騎が、一種の山寨を構成し、しきりに、密偵を放ったり、離散した味方との連絡を計ったり、また食糧の猟り集めなど、営々として、とにかく、再起の意気だけは、持ち耐えていた。