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たいらのまさかど

平の将門

吉川 英治

「小説公園」六興出版社、1950(昭和25)年新春号~1952(昭和27)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 232,193 字 · 463 页

青空文庫

玄明は常陸の下官として、余り評判のいい男ではない。

彼が、下官のくせに、つねに上司に反抗し、粗暴で冷酷な官吏だということは将門もかねてうすうす耳にしていたので、

「玄明が職を離れたのは、いずれ自業自得というものだろう。そんな者、匿まってやるわけにはゆかぬ。追い払ってしまえ」

と、彼だけには、いつもの寛度も仁侠も示さなかった。

「いかにも、仰っしゃる通り、狡智に長けた官僚くさい男ですが……ただ彼奴は、常陸の内情をよく知っているはずでしょう。そこでいろいろと訊いてみると、お館にとっては、ゆるがせに出来ない一大事をふと口走りましたよ。じつに意外な事を」

不死人はこういって、人を焚きつけるような眼をかがやかした。将門は、つい引きこまれて、

「なんだ。おれにとって、ゆるがせにならぬ一大事とは」

と、早口に訊き返した。

「右馬允貞盛が、とうから常陸へ帰って、密々に、また策動をめぐらしているらしいので……」

「なに、貞盛のやつが?」

貞盛ときくと、将門はすぐ鬼相を現わした。骨髄から滲み出して面にたたえる彼への憎悪と、警戒と、そして忘れ難い怨みに燃える眼は、到底、不死人がいたずらに努めている煽動の眼などとは比較にならないものである。