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たいらのまさかど

平の将門

吉川 英治

「小説公園」六興出版社、1950(昭和25)年新春号~1952(昭和27)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 232,193 字 · 463 页

青空文庫

「いるといったのか」

主人の意外な受け方に、取次の家人は、まごついた。

「は。つい、御在邸と申してしまいましたが」

「そうか。……ならば」と、秀郷はここでまた、老獪そうな眼ざしを、じっと沈めて、

「風邪で臥せっておるといっておけ。――しかし、ていねいに犒えよ。粗相にはするな。よろしいか。西の屋の客殿に請じ、酒肴をさしあげて、よくわけを申せ。秀郷はお会い申したく思うておるが、何せい老齢ではあり、この寒気。深く寝屋に閉じ籠っておりますれば……と」

「心得ました。お旨のように、粗相なく致しておきまする」

家人は引き退がった。

翌日、秀郷は、饗応に当った家臣の一名を呼んで、そっと様子を訊ねた。

「どうした。客の貞盛は……」

「手厚いおもてなしに、たいへん恐縮しておられまする」

「立帰るような口吻はないか」

「何か、容易ならぬ事で、ぜひ、お縋り致さねばならぬとか申されて――お風邪の癒える日まで、御逗留のおつもりらしゅうございます」

「そうだろう。……ま、もう二、三日は待たせておくもよい。秀郷に会わずに帰る筈はない」

彼は、何もかも見抜いていた。貞盛の来意ばかりではない。およそ坂東平野の出来事なら、知らない事はないほどである。