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こきょうしちじゅうねん
故郷七十年
柳田 国男
「神戸新聞」神戸新聞社、1958(昭和33)年1月9日~9月14日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 257,350 字 · 507 页
そこは西光寺野という、開墾場になっていて、隣家の非常に有能で勤勉な夫婦者が、ちょうどそこを開墾していた。よく働く親爺が、「おお、これは隣の子だ」というので、私をすぐに抱き上げて帰ってくれた。帰る途中で逢った人々が、「これはどこの子だい。さっき何だか一人で、てくてく歩いて行ったが……。一人でどこへ行くのか知らんと思ったまま声をかけなかったのだ」と、みなでいったことを今も覚えている。
それなども、もうちょっと先に行くか、または隣の親爺さんが畠をしていなければ、もうそれっきりになっていたに違いない。
もう一つ、十一歳の時に、母や弟たちといっしょに一里ぐらいはなれた山へ茸を採りに行った時のことである。山向うの裾の池の端にみなで休み、グミか何かを食べて、いざ帰ろうということになって、いっしょに歩き出したところ、どういうわけか、多分母親が道を間違えたのかと思うが、山を一つ越えて反対側へ引返したつもりだったのに、山は越えずに斜めに歩いただけで、また元の池の端に出てしまっていた。私がよほど変な顔をしていたと見えて、母が突然私の背中をがあんと叩きつけた。叩くなんてことは今までついぞなかったのに、その時は私の変な顔つきを見た拍子に背中をはっと叩いたのであろう。