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たいらのまさかど
平の将門
吉川 英治
「小説公園」六興出版社、1950(昭和25)年新春号~1952(昭和27)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 232,193 字 · 463 页
――それは、変り果てていたが、浦人の妻だった。彼女は、涙をながして、良人の浦人が、もう世にないことを語って、
「やがて、和子様が、都の空からおもどりになったら、そっと、これをお見せ申しあげろというて、あの人は、息をひきとりました。……それは、もう、おととしの秋のことで、ございまするが」
と、遺書らしい物を取出して、小次郎に渡した。
その夜、小次郎は、浦人の遺書を読んで、灯に、すすり泣いた。浦人は、ひたすら、小次郎の帰国を待ち、あらゆる迫害と、貧窮に耐えつつ、さいごの最期まで、牧を守っていたのだった。遺書の終りには、こうあった。(――三ヵ所の、牧のうち。ほか二ヵ所は、すでに、良兼、良正様たちの、家人方に持たれています。そのほか、相伝の御荘園や開田地なども、どうやら、あやしげな処分になってしまいました。無念ながら、浦人ごとき老骨の力には及ばず、あるまじき非道を見ながら、病に果て終ることは、何とも心残りです。どうか、御帰国の上は、充分に、お力を養って、御家運を、盛り返してください。浦人の魂魄は、世を去っても、和子様を、お護り申しあげているでしょう……)