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たいらのまさかど

平の将門

吉川 英治

「小説公園」六興出版社、1950(昭和25)年新春号~1952(昭和27)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 232,193 字 · 463 页

青空文庫

蝦夷萩であった。

「小次郎。見て来い」

小い叔父に突きのめされて、小次郎は、ぜひなく覗きに行った。崖際から、矛を逆さに植えたような氷柱の簾の下に、一片の雑巾みたいなものが見えた。彼は、顔まで、鳥肌になり、唇のふるえを噛んだまま、その足で、大結ノ牧の方へ、奔馬みたいに、逃げて行った。

正月も、牧の馬と一しょに、馬房の藁の上で寝た。

彼には、人間の家よりは、馬の仲間のほうが、あたたかだった。

二月である。大掾の国香は、館の奥で、毛皮の上に坐りこみ、良兼、良正の両叔父をも、左右において、小次郎へいい渡した。

「都へ、遊学に行け。人間らしくなるように、学んで来い」

小次郎は、むッそり、口をむすんでいた。不服と、とったものか、小い叔父まで、声をいかつくして、

「なんだ、貴様は。桓武天皇からの血を辱めやがって、蝦夷の奴婢と、交くわるなどとは、あきれた呆痴者だ。――死んだ、兄者人にも、相すまぬ。家のため、貴様のため、都へ出て、勉強して来い。立派に、成人して、人らしくなるまで、帰って来ても、家には入れぬぞ」

ただちに、旅費の砂金、少しと、旅装一通りと、そして、一通の書状とが、小次郎の眼のまえに置かれた。