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たいらのまさかど

平の将門

吉川 英治

「小説公園」六興出版社、1950(昭和25)年新春号~1952(昭和27)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 232,193 字 · 463 页

青空文庫

それから、十日ほど後である。

将門は、一情報をつかむと、すぐ主なる家人や弟たちを寄せて、万全な密議をこらし、夜半、豊田の兵一千余を引率して、子飼の江上を渡った。

ここは、四方の大河、江頭をあわせても、どこより水を渡る最短距離であった。

なおまだ暁天も暗いうちに、彼は、敵領に近い大宝郷堀越の渡し附近に埋伏した。

葦も芒も秋草も伸びるだけ伸びきっている季節である。伏兵には時を得ていた。そして、蛭に喰われたりヤブ蚊にさされたりの沈黙をじっと怺えて、やがての戦機を待っていた。

「……見えぬぞ、まだ」

「はて、来ないなあ」

この日、羽鳥の良兼が、先日の奇襲に味をしめて、ふたたび、豊田へ襲せてくるという密報が、前日に探られていたのである。

――と、果たして。

陽も高くなった頃、筑波、常陸、水守の兵をあわせた大軍が、えんえんと、長蛇の影を見せてきた。

渡しへ、かかった。

筏にのり、馬を、浅瀬に曳き、列も陣も、みだれた時を計って、将門が、

「射ろ」

と、急に命令を下した。

敵は、狼狽した。江の水は、赤くなった。

しかし、良兼の部下は、先頃にもまさる大兵であり、あらかじめ、途中の伏兵には、要心もしていたらしく、たちまち、勢いを、もり返して、