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たいらのまさかど

平の将門

吉川 英治

「小説公園」六興出版社、1950(昭和25)年新春号~1952(昭和27)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 232,193 字 · 463 页

青空文庫

空蝉贈呈

それにおるのは、小野氏彦、紀秋茂、津時成などで……どれも隔意のない友人ばかり。暢気者の集い。気がねな者はひとりもいません。君も気楽に飲ってください」

――海賊とは、冗戯であろう。小次郎は、うち消して、笑っていた。

だが、主はこの人にちがいない。そのうちとけた親しみぶりは、むしろ小次郎を、まごつかせた。彼は、ちがった世界にあるような気がした。

公卿の子弟といえば、笛でもふくか、歌の一つも作るしか、ほかに能のない公達輩でも、みな衣冠を飾り、牛輦にかまえ、人を見ること芥のようなのが、すべてである。ところが、ここには、主の純友始め、たれにも、そんな臭気がない。

虚飾や権力のそれがない代りに、汗や垢のにおいは、誰にもする。直衣、狩衣、布直垂など、まちまちの物を着、袖を捲りあげて、夏の夜らしき、談論風発である。かたわらには皆、太刀をおいていた。

そのはなしも、小次郎には、耳めずらしく、また、事々に、未知への驚異であった。

空蝉贈呈

いまは無人で、いと荒れ古びてはいるが、ここの邸が、宏大なのは、ふしぎではない。純友の祖父、藤原遠経の代に建てられた館である。

遠経は、陽成、光孝の二帝の朝に権威をふるって、大氏族藤原の繁栄をひらいた関白基経の弟である。