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こきょうしちじゅうねん
故郷七十年
柳田 国男
「神戸新聞」神戸新聞社、1958(昭和33)年1月9日~9月14日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 257,350 字 · 507 页
石坂素道さんのこと
というものが出来たもとであった。題をたくさん集め、作例を下へ並べたのが類題集で、これは大変な仕事であった。手紙を書いても歌がなくては求婚にならないとか、そのまた返歌を書くなど、どうしても男女ともに歌を詠まねばならぬ時代であったから、誰でも「恨む恋」とか「待つ恋」の練習をするため、類題集が必要であった。『草庵集』はこの類題集のいちばん早いもので、前に記した秋元安民の『青藍集』まできているのである。
この類題集を見ると、恋愛の変化や、恋歌の目的の変化がよく分る。松浦先生は非常に堅くるしい方であったから、わざと恋歌などは出さなかったが、それでも酒の出た時などの当座の題に、何々の恋というような題を出した。人によってはそれに力をいれて、いくらか興奮させる点を利用して、深窓の娘さんにまで作らせる例もあったのである。
新しい人たちが、古風な歌を月並だといって馬鹿にするのも、つまりは歌の必要が一地方にいた一人、二人の職業歌人とか詩人とか以外の、素人にもあり、一通り嗜みとして題詠を練習したことからきているのである。
石坂素道さんのこと
近世の国学を興した契沖は、歌の方にも秀れており、歌集があるが、恋歌は避けたらしく、彼の歌集には恋歌が見当らない。