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こきょうしちじゅうねん
故郷七十年
柳田 国男
「神戸新聞」神戸新聞社、1958(昭和33)年1月9日~9月14日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 257,350 字 · 507 页
南方熊楠先生のこと
同じ仲間の島田清君という人は、同じ職業だが、多く歴史の方へ入って、縦に観察する傾向があるのに対し、太田君は横断面を見ようとして、大変ちがった立場をとっていた。兵庫県下をよく歩いて『近畿民俗』などに発表しているが、一つにまとめておいてやりたいものである。
はじめにいった通り、私の家とは二代にわたって懇意だったわけであるが、そのうえ、今も太田君の形見が私の家の庭にはある。たしか武昌大学の並木の実だといって、ケンボナシの種子を送ってくれた。太田君はよくいろいろな種子を、細かく説明をつけて友人や知人に送ってくれた。このケンボナシが今は大きくなり、私の庭のいちばん大きい木になっている。いつか見えた娘さんの話には、他では育たなかったとか。さすれば、この木は太田君の何よりの形見となっている。遺児達に返してあげたいと思うが、今はそれも不可能なくらい大木になってしまった。
南方熊楠先生のこと
大勢の人とつき合って来たが、その中でも、紀州の南方熊楠という学者は変っていた。明治四十三年、私は『石神問答』という本を出した。十人ばかりの名士から来た手紙を中心とした書簡集の形式を踏んだもので、これを坪井正五郎博士にお贈りしたところ、人類学会の方へ紹介して下さった。