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こきょうしちじゅうねん
故郷七十年
柳田 国男
「神戸新聞」神戸新聞社、1958(昭和33)年1月9日~9月14日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 257,350 字 · 507 页
彦根藩士で、名家の出で、学者でもあった。もと警視庁の捜査係をしていたこともある。他のことではあまり冗談もいわない人だったが、この人の話に、維新前、今の日比谷に彦根藩の邸があって、そこに一人、近江犬上郡大君ヶ畑の木地屋に関係のある者がいた。いつも道楽をして金が足りなくなると、箱根の木地屋に行って僅かだけれど借りて来たというのである。つまり箱根の木地屋が大君ヶ畑の系統であったからという話であった。
箱根の木地屋は一時寄木細工などをしていたが、やがてこれでは手数がかかるので、それも廃れてしまった。明治になって、山林を自由に伐ることができなくなった木地屋は、大体二つに分れてしまったようである。まず少し有能の士は里に降りて来て木地の卸売をし、方々と連絡をとって大規模な生産や供給をした。次に能力の乏しい方は、コケシなどを造るようになったのではなかろうかと考えている。
私が近ごろまた木地屋のことに興味をもち出したのは、民族の国内移動ということを調べるのに、この山間を漂泊した木地屋などは最もよい例だと思うからである。
木地師の葬法
明治四十四年、私は岐阜県にゆき、木地屋の話をききながら歩いたことがある。