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こきょうしちじゅうねん
故郷七十年
柳田 国男
「神戸新聞」神戸新聞社、1958(昭和33)年1月9日~9月14日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 257,350 字 · 507 页
故郷を離れたころ
故郷を離れたころ
しかも一方にはどうすれば親睦を永古にするかの方策がまだ立たず、結局は疎遠と冷淡とによって、いわゆる路傍の人を多くするに終ることであろう。
曾て板垣さんが自由は死せずと呼号した時代に、私の旧宅の門前に於て、若い酔狂人が大の字になって怒鳴って動こうとしない。母は出て行って門の戸を締め貫抜きを通し、私たちは陰に隠れて恐る恐る覗いて居ると、彼の友だちが傍にそっと近よって、百方なだめすかして連れて行こうとするが、酔っぱらいは愈々強く踏みしめて、自由の権だいという文句を何遍か高く唱えた。是が私の此語を学び始めた日であったが、それから今日まで此語はきらいである。
自由は我儘も元は同じ意味で、何と人は言おうとも自分は是非斯うするということで、老人はもとは平気で「そんな自由なことは許しません」などと声明して居た。何かもっとよい言葉を見付けて取かえないと、それこそ我々は不自由としなければならぬ。
言葉の伝来は改めて考うべき問題であり、それに心づいたのも亦母の御蔭である。
(三十四年十月上旬)
故郷を離れたころ
故郷を離れたころ
故郷というものは、五十年が行きどまりだと、かねがね思っていたが、私が次兄(井上通泰)に伴われて故郷兵庫県神東郡田原村辻川(現神崎郡福崎町辻川)を離れてから、今年でもう七十一年になる。