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こきょうしちじゅうねん

故郷七十年

柳田 国男

「神戸新聞」神戸新聞社、1958(昭和33)年1月9日~9月14日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 257,350 字 · 507 页

青空文庫

父の歌など

黒住教はそのころ、西光寺野の入口に教会を建てて布教しておったが、体の悪い村人が訪れると、太陽の方を向いて深く息をすい込み、病人の患部に吹きつけるという動作をくり返した。そのとき人間の息とは臭いものであると感じ、その匂いと黒住教というものが伴って、私の心にやきつけられた。

西光寺野がいまのように水利の便が出来る以前は、県当局が意識してこの道を盛んにする方法をとったようである。車屋がいつも太尾の立場という話をしていたので、姫路と辻川の中間部にあるというその土地は繁華な土地であろうと、私たちは想像していた。西光寺野開発のために設けたであろうその立場を一度訪れてみたが、想像に反して田畑と林の中に一軒の茶店があるだけの寂しい所で、子供心に描いていた空想が一度で毀されたことを思い出す。

父の歌など

成城町の私の家の近くに英文学者秋元俊吉氏が住んでいるが、この人の祖父の安民という人は、姫路の有名な歌人であった。『青藍集』という当代の歌人の作品集を纏めた人であるが、その中には播州の歌人が相当に収められ、往時の播州文化の片鱗が偲ばれる。海神社の宮司だった上月豊蔭、また後上京して私塾をひらいた国富重彦などの人々は、維新から明治にかけての播州の代表的な歌人であった。