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こきょうしちじゅうねん

故郷七十年

柳田 国男

「神戸新聞」神戸新聞社、1958(昭和33)年1月9日~9月14日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 257,350 字 · 507 页

青空文庫

赤碕から送ってきたお供はそこから返し、津山から別の人がついて来た。私の家の歴史で、父の赤碕行きは一つの事件であったのだ。帰宅した父から、いろいろな赤碕の町の話、宿の話などをきかされたので、私にとっては印象の深い土地の名として記憶に残っていた。

そのことがあってから四十年ほど後、私は米子へ旅行したついでに、ありし日の父を偲ぼうと赤碕を訪れた。父の教えた塾を作った家は佐伯といい、代は変っていたが、やはりそのままに存続していた。父が泊っていたという宿は昔のままに残っており、村の老人で父に教わったという人もあって、懐しい父の面影を、その人の話から偲んだことである。

街道の思い出で、出雲から但馬路を経てこの村を通過した国造家(出雲大社の千家)を迎えたことがあった。生神様のお通りだというので、村民一同よそゆきの衣装を着て道傍に並んだ。若い国造様が五、六名のお伴を従えて、烏帽子に青い直垂姿で馬で過ぎていった時、子供心に、その人の着物にふれでもすれば霊験が伝わってくるかのような敬虔な気になったようである。その国造様の姿がいまもくっきりと瞼に浮んでくる。その前後、当時の新興宗教である黒住教の二、三代目に当る教祖を迎えたこともあった。