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さんごくし

三国志(三)

吉川 英治

吉川英治『三国志(三)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:三国志、三国志。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 312,452 字 · 628 页

青空文庫

二

「おい一同。まず俺ひとりが先へ登って行って、綱を下ろすから、そこへかがみこんだまま、敵の歩哨を見張っておれ。――いいか、声を出すな、動いて敵に見つかるな」

陳武は、そう戒めてから、ただ一人でよじ登って行った。――磚と磚のあいだに、短剣をさしこんで、それを足がかりとしては、一歩一歩、剣の梯子を作りながら踏み登って行くのであった。

二

「――火だっ」

「火災だっ」

「怪し火だ!」

銭糧倉から、また、矢倉下から、書楼の床下から、同時にまた、馬糧舎からも、諸門の番人が、いちどに喚き出した。

城将の太史慈は、

「さわぐな。敵の計だ。――うろたえずに消せばよい」

と、将軍台から叱咤して、消火の指揮をしていたが、城中はみだれ立った。

――びゅっッ!

――ぴゅるん!

太史慈の体を、矢がかすめた。

台に立っていられないほど風も強い闇夜である。

諸所の火の手は防ぎきれない。一方を消しているまに、また一箇所から火があがる。その火はたちまち燃えひろがった。

のみならず城の三方から、猛風に乗せて、喊の声、戦鼓のひびき、急激な攻め鉦の音などがいちどに迫ってきたので、城兵は消火どころではなく、釜中の豆の如く沸いて狼狽しだした。