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さんごくし

三国志(三)

吉川 英治

吉川英治『三国志(三)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:三国志、三国志。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 312,452 字 · 628 页

青空文庫

油情燈心

一

そして自分の体に重ね著して玉帯を掛け、左右の臣をかえりみて、

「どうだ、似合うか」と、たずねた。

誰も笑えなかった。

「似合うだろう。これはいい」

曹操は独り笑い興じながら、

「国舅、これは予に所望させ給え。何か代りの礼はするゆえ、曹操に譲ってくれい」

「とんでもないことです。ほかならぬ恩賜の品。差上げるわけにはゆきません」

董承が容を改めていうと、

「しからば、何かこのうちに、帝と国舅のあいだに謀略が秘めてあるのではないか」

「そうお疑いになればぜひもありません。御衣も玉帯も、献じましょう」

「いや冗談だよ」

曹操は急に打消して、

「なんでみだりにひとの恩賜を、予が横奪りしよう。戯れてみたに過ぎん」

と、二品を返して、宮殿の方へ足早に立去ってしまった。

油情燈心

一

「ああ危なかった」

虎口をのがれたような心地を抱えて、董承はわが邸へいそいだ。

帰るとすぐ、彼は一室に閉じこもって、御衣と玉帯をあらためてみた。

「はてな。何物もないが?」

なお、御衣を振い、玉帯の裏表を調べてみた。しかし一葉の紙片だに現れなかった。

「……自分の思い過しか」

畳み直して、恩賜の二品を、卓の上においたが、何となく、その夜は、眠れなかった。