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さんごくし

三国志(三)

吉川 英治

吉川英治『三国志(三)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:三国志、三国志。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 312,452 字 · 628 页

青空文庫

けれど、どんな廃屋でも、御所となれば、ここは即座に禁裏であり禁門である。

緑林の親分李楽も、帝に従ってから、征北将軍といういかめしい肩書を賜わっていたので、長安や洛陽の宮城を知らない彼は、ここにいても、結構いい気持になれた。

その増長がつのって、近頃は、側臣からする上奏を待たずに、ずかずか玉座へやって来て、

「陛下。あっしの子分どもも、ああやって、陛下のために苦労してきた奴らですから、ひとつ官職を与えてやっておくんなさい。――御史とか、校尉とか、なんとか、肩書をひとつ」

と、強請ったりした。

あまりの浅ましさに、侍臣たちがさえぎると、李楽はなおさら地を露わして、

「黙ッてろ、てめえたち!」と、朝官の横顔をはりたおした。

それくらいはまだ優しい方で、ひどく癇癪を起した時は、帝の側臣を蹴とばしたり、耳をつかんで屋外へほうりだしたりした。

帝には、それをご存じなので、李楽のいうままに、何事もうなずいておられた。けれど、官職を下賜されるには、玉璽がなければならない。筆墨や料紙はなんとか備えてあるが玉璽は今、お手許にない。――ゆえに、

「しばし待て」と、仰せられると李楽は、そんな故実など認めない。