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さんごくし

三国志(三)

吉川 英治

吉川英治『三国志(三)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:三国志、三国志。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 312,452 字 · 628 页

青空文庫

おん身の内心には、人もなげなる覇道の遂行を思いながら、行うことといったら、かくの如き小心翼々たるものだ。小心にして鬼面人をおどすもの、これを、匹夫という。――実にも稀代の匹夫が玉殿にあらわれたものだ。時の丞相曹操! ああ偉大だ! 偉大な匹夫だ!」

手をたたいて慢罵嘲笑する彼の容子は、それこそ、偉大な狂人か、生命知らずの馬鹿者か、それとも、天が人をしていわしめるため、ここへ降した大賢か――とにかく推しはかれないものがあった。

曹操の面は、蒼白になっている。否、殿上はまったく禰衡一人のために気をのまれてしまったかたちで、この結果が、どんなことになるかと、人ごとながら文武の百官は唾をのみ歯の根を噛んで、悽愴な沈黙をまもりあっていた。

孔融は心のうちで、今にも曹操が、禰衡を殺害してしまいはせぬかと――眼をふさいで、はらはらしていた。

その耳には、やがて満座の諸大将が、剣をたたき、眦をあげて、

「舌長なくされ学者め。いわしておけば野放図もない悪口雑言。四肢十指をばらばらに斬りさいなんで目にものをみせてくれる」

騒然、立ちあがる気配が聞えた。――孔融はハッと眼をみひらいたが、とたんに満身の毛穴から汗がながれた。