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さんごくし

三国志(三)

吉川 英治

吉川英治『三国志(三)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:三国志、三国志。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 312,452 字 · 628 页

青空文庫

「こことても油断はならぬ」と、きびしく陣容を守りかためていた。

そして、ほうほうの態で逃げこんでくる敗兵がみな、口々に、

「文将軍を討ったのも、さきに顔将軍を討った髯の長い赤面の敵だ」

というので、夜明けとともに、玄徳は一隊を率いて前線の近くまで馬をすすめて見た。

黄河の支流は、ひろい野に、小さい湖や大きな湖を、無数に縫いつないでいる。ふかい春眠の霞をぬいで、山も水も鮮やかに明け放れてはいるが、夜来の殲滅戦は、まだ河むこうに、大量な人物を撒いて咆哮していた。

「オオ、あの小旗、あの白い小旗をさしている男です」

案内に立った敗兵のひとりが支流の対岸を指した。百獣を追いまわす獅子王のような敵の一大将が遠く見える。

「……?」

玄徳はややしばらく眸をこらしていた。小旗の文字がかすかに読まれた。「漢寿亭侯雲長関羽」――陽にひるがえるとき明らかにそう見えた。

「ああ! ……義弟の関羽にちがいない」

玄徳は瞑目して、心中ひそかに彼の武運を天地に祈念していた。

すると、後方の湖を渡って、曹操の軍が退路を断つと聞えたので、あわてて後陣へ退き、その後陣も危なくなったので、またも十数里ほど退却した。