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たいらのまさかど
平の将門
吉川 英治
「小説公園」六興出版社、1950(昭和25)年新春号~1952(昭和27)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 232,193 字 · 463 页
はははは」
貞盛の自嘲していう顔には、複雑な影があった。それに昨夜から同席して打ち解けたふうは示していても、自分の住所にしろ、近頃の進退についても、どこか話に明瞭を欠いていた。秘密をもつ人間のような、誰にでも細心な気をつかって物をいっているふうが見える。
しかし、弾正忠定遠が、何もそんな観察をくだしていたわけではない。彼も、貞盛と将門との険悪な葛藤や、またこの地方を含めた坂東一帯の積年にわたる闘争なども、中央を立つときから耳にしていた。けれど、それに触れたら厄介な話になるのをよく弁えていたのである。馬鹿ばなしや、冗談には興じても、それには触れないに限るときめていた。――そして今は、官用も果たし、別宴にも臨み、慣例の郷産物の贈り物を受けたので、ただ、さりげなく宿を立ち、早く都の妻子の顔でも見ようという欲望を余しているだけであった。
ところが、その日。
為憲や貞盛たちも、まだこの旅舎で定遠と話しこんでいる間に、国庁の早馬が、長官たる維茂を、ここまで、探し当てて来て、
「兵変です。隣国の侵入です。下総の将門勢が、大挙して、常陸の国境を踏み越えて来たとの報らせがありました」