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たいらのまさかど

平の将門

吉川 英治

「小説公園」六興出版社、1950(昭和25)年新春号~1952(昭和27)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 232,193 字 · 463 页

青空文庫

実際に貞盛が誓紙を入れたかどうかは不明である。しかし、それ程な礼をとって懇請したことには違いない。秀郷は、相手にさんざん気を揉ませておいてから、やっと「うん……」と承諾したのだった。

永年の間、下野一帯の治安、警察、徴税の監察などに当って、秀郷一族がこの地方に培って来た勢力は、いよいよ彼が将門征伐に起つとなった時、初めて表面に現れた。

四千騎の兵が、田沼に糾合され、武庫を開いて、鏃をみがき、刃を研いだ。

けれど、その行動はまだ極秘のうちに行われていた。あくまで用意ぶかい秀郷は、なお田原の居館を出ず、ただ密偵を派して、将門の以後の行動をさぐり、周到な情勢判断だけを握って、ひそと、出撃の機会をうかがっていた。

痴児の酔い

将門は捷った。大いに捷った。

彼の部下は、声をからして、勝鬨をあげ、狂せんばかり、常陸の国土を、蹂躪し廻った。

「捷つには捷ったが、これはちとやり過ぎたな」

将門がそう気づいた時は、すでに狂兵の乱舞も終っていた後である。

たれが火を放ったのか、将門さえ知らないまに、常陸の国庁は、焼け落ちていた。そのほかの官衙官倉と、あとかたすらない。