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こきょうしちじゅうねん

故郷七十年

柳田 国男

「神戸新聞」神戸新聞社、1958(昭和33)年1月9日~9月14日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 257,350 字 · 507 页

青空文庫

なぜこうした問題を語り始めたかといえば、じつはこのオヤとかイヤという問題が、日本人の民間信仰、ひいては民族の起源にまで溯る重要なことなのである。つまりイヤという地名を全国的に調べてゆくと、先祖の霊のある所をイヤ山イヤ谷と呼ぶ事例が多いのであって、亡霊を山に埋葬した風習、そして後には霊を祭る場所は別に人家の近くに置くという両墓制度の習慣にもかかわって来るのである。古くは先祖の霊は山へゆくという信仰があったらしいのである。米作民族の日本人が米を携えて南から北へ移って来たとすれば、一時あるいは珊瑚礁のような、ある時は宮古島のような平地の場所にも住んだとも考えられ、さすれば山のないことが些かこの仮説の障害にはなる。

しかし沖縄にもオヤという語があって、一群のカシラを指すものとなっている。一時中国化した琉球でも離島では一種の英雄をオオオヤといっており、沖縄の政治制度では判任官が親子、奏任官が親雲上と職名に書くなど、オヤの字の使用されている例が非常に多い。子という語にしても、今日われわれの使用する親子の子ではなく、個人、土地の人民の意味なのである。いまや、一族というものが離ればなれに散じてしまったため、なかなかこのオヤクの問題を結論づけるのは困難である。