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こきょうしちじゅうねん
故郷七十年
柳田 国男
「神戸新聞」神戸新聞社、1958(昭和33)年1月9日~9月14日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 257,350 字 · 507 页
自分の遠慮もない身の上話に引かれて、ふいと音信をして見ようという気になった古い縁者、または親類どうしが交際して、偶然に名を覚えていたというような家々の人から、面白いほど色々の手紙が来た。久しい以前から知りたいと思っていたことが、次々と判って来るのも新聞のお蔭だが、ただ一つだけ困ったことは、あの児は物覚えがよいなどとほめられたのに安心して、何度か思い出し、または人にも語っていた昔の話の中に、幾つかの誤りがありそうだということが、それも今ごろになってやっと心づかれ、ひどく自分の史力とも名づくべきものに、不信の念を抱くようになったことである。
幸いにしてこれは本文の中に、まだ説き立てていないのだから訂正の必要もないが、あまりにも懐しい昔である故に、かつは読者への警戒の意味を兼ねて、児童の印象の至って気まぐれなものである例を残して置きたい。芦屋の福渡竜氏は私と同じ村、しかも家が近く親類の続きでもあるのだが、僅か二十年足らずの生れ年のちがいの為に、今まではまるで知らずにいた。今度はやはり新聞の記事が縁で、七月下旬には出て来られて、ゆっくりと会った。
古い思い出が次々と胸に浮ぶ中でも、中心はやはり明治十七年の夏から秋、私の実家が家屋敷を売払って北条へ引移る前に、ほんの数カ月の間、この福渡氏の東側の一棟を借りて、寄寓