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こきょうしちじゅうねん
故郷七十年
柳田 国男
「神戸新聞」神戸新聞社、1958(昭和33)年1月9日~9月14日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 257,350 字 · 507 页
していたころのことに集中する。辻川文化史の主要点は郡役所の移ってきたこと、それに先立っての昌文小学校の新築とか、恵比須さんの社が国道の傍に見事に建設されて、しかもその前に石灰の俵を高く積んだために、雨の夜に火事が起ってたちまちに丸焼けになったことなど、覚えていることは色々あるつもりだったが、それまで話題にしていると、初めての会見が夜になっても困ると思って、是は最初から私も断念していた。
それよりも私が何とかして聴いて置こうと思ったのは、ちょうどこの福渡家の屋敷の地面続きに、後の竹藪の端へかけて、村にはちょっと珍しい芝居の常小屋が建設せられ、そこには少なくとも二年ばかりの間、折々の旅役者の興行があったこと、これもこの家の初代新次郎翁の企業熱もしくは新興趣味の一つの現れではなかったか。何かの話のついでに、こういう風変りなお祖父さんの逸話を、福渡氏に聴かせてくれた人はないかどうか。私だけは自身かすかながら、目と耳との記憶もあり、また数カ月の仮住の間にも、何度かそのころを思い出したことがあるのだが、竜さんたちはもうそういう噂話とも縁が切れて、新たに本で読むような気持しかもてぬかも知れない。