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しのげんり

詩の原理

萩原 朔太郎

「詩の原理」第一書房 、1928(昭和3)年12月15日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 153,641 字 · 305 页

青空文庫

音楽の魅力は酩酊であり、陶酔であり、感傷である。それは人の心を感激の高所に導き、熱風のように狂乱させる。或は涙もろくなり、情緒に溺れ、哀切耐えがたくなって、嗚咽する。ニイチェの比喩を借りれば、音楽こそげにデオニソスである。あの希臘的狂暴の、破壊好きの、熱風的の、酩酊の、陶酔の、酒好きの神のデオニソスである。

これに対して美術は、何という静観的な、落着いた、智慧深い瞳をしている芸術だろう。諸君は音楽会の演奏を聴いた後で、直ちに美術展覧会に行き、あの静かな柔らかい落着いた光線や気分の中を、あちこちと鑑賞しつつ歩いた時、いかに音楽と美術とが、芸術の根本的立場に於て、正反対にまで両極していることを知ったであろう。会場の空気そのものすらが、音楽の演奏では熱しており、聴客が狂気的に感激している。そして美術の展覧会では、静寂として物音もなく、人々は意味深げに、鑑賞の智慧聡い瞳を光らしている。かしこには「熱狂」があり、此処には「静観」があり、一方には「情熱」が燃え、一方には「智慧」が澄んでる。

実に美術の本質は、対象の本質に突入し、物如の実相を把握しようとするところの、直覚的認識主義の極致である。