Japanische Klassiker mit Furigana
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みやもとむさし
宮本武蔵(一)
吉川 英治
Lesen Sie 宮本武蔵(一) (みやもとむさし) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 231.525 Zeichen · 463 Bildschirme
また、
(勝てる)
とも思っていなかった。
笠置颪ろしが、頭の中をも吹きぬけて行くような心地であった。脳膜が蚊帳のようにすずしい。そしておそろしく眼がよく見える。
――右の敵、左の敵、前の敵。だが。
やがて武蔵の肌はねっとりと粘ってきた。額にもあぶら汗が光っている、生れつき人なみ以上巨大な心臓は膨れきって、不動形の肉体の内部にあって極度な、燃焼を起こしているのだ。
ず、ず……
左の端にいた敵の足がかすかに地を摺った。武蔵の刀の先は、蟋蟀のひげのように敏感にそれを観て取る。それをまた、敵も察して入って来ない。依然たる四と一との対峙がつづく。
「…………」
しかしこの対峙が不利であることを、武蔵は知っていた。武蔵は敵の包囲形の四を、直線形の四にさせて、その一角から次々に斬ってしまおうと考えるのであったが、相手は、烏合の衆ではない達人と上手のあつまりだ、そういう兵法にはかからない。厳として位置をかえない。
先が、その位置をかえないかぎり、武蔵の方から打ってゆく策は絶対なかった。この中の一名と相打ちして死ぬ気ならばそれも可能であるが、さもなければ、敵の一名から行動してくるのを待って、敵の四の行動が、ほんの瞬間でも、不一致を起こすところを臨んで打撃を加えるほかにない。