Japanische Klassiker mit Furigana
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みやもとむさし
宮本武蔵(一)
吉川 英治
Lesen Sie 宮本武蔵(一) (みやもとむさし) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 231.525 Zeichen · 463 Bildschirme
奈良の宿
一
当院の常例じゃ。その香の物の瓜は、宝蔵院漬というて、瓜の中に、紫蘇と唐辛子を漬けこんであって、ちょびと美味い。試みなされ」
「では」
武蔵が箸を取ると、日観の眼をまたぴかりと感じる。向うから発する剣気か、自分から出る剣気が相手に備えさせるのか、武蔵は、その間の微妙な魂の躍動が、どっちに原因するとも判断がつかないのであった。
下手に、瓜の漬物などを噛みしめていると、かつての沢庵和尚のように、いきなり拳が飛んでくるか、長押の槍が落ちてくるかも分らないのだ。
「どうじゃの、お代りは」
「十分、いただきました」
「ところで宝蔵院漬の味は、いかがでござった?」
「結構でした」
しかし武蔵は、その時そうは答えたものの、唐辛子の辛さが舌に残っているだけで、ふた切れの瓜の風味は外に出ても思い出せなかった。
奈良の宿
一
「敗けた。おれは敗れた」
暗い杉林の中の小道を、武蔵はこう独り呟きながら帰って行く。
時折、杉の木蔭を、迅い影が横に跳ぶ。彼の跫音におどろいて駈ける鹿の群れだった。
「強いことにおいておれは勝っている。――しかし敗けたような気持を負って宝蔵院の門を出てきた。――形では勝ったが敗けている証拠ではないか」