Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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みやもとむさし

宮本武蔵(一)

吉川 英治

Lesen Sie 宮本武蔵(一) (みやもとむさし) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 231.525 Zeichen · 463 Bildschirme

Aozora Bunko

八

――梢の上の武蔵はいうまでもない。

八

お通は、どうしても、そこを去る気もちになれなかった。

雨やしずくが、背をとおして、肌着にまで浸みて来たが、武蔵のことを思えば何でもない気がする。だが、何で、武蔵の苦しみとともに自分も苦しみたいのか――それは考えている余裕もない。

ただ遽かに、彼女には見事な男性の象がそこに見えていたのである。こんな人こそ、真の男性ではないかと思うと共に、殺したくないと念ずる思いが真剣にこみあげてくるのであった。

「かあいそうな!」

彼女は、樹をめぐって、おろおろしだした。仰いでも、その人の影すら見えない雨と風であった。

「――武蔵さあん!」

思わずさけんだが、返辞はない。あの人もまたこの私を、本位田家の一人のように、村の人々と同じように、冷酷な人間と視ているにちがいない。

「こんな雨に打たれていたら、一晩で死んでしまう。……ああ、誰か、これほど人間の多い世間なのに、一人の武蔵さんを、助けてやろうとする人はないのか」

お通は、突然、雨の中をまっしぐらに駈けだした。風は彼女を追いかけるように吹いた。

寺の裏は、庫裡も方丈も、すべて閉まっていた。