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たいらのまさかど

平の将門

吉川 英治

「小説公園」六興出版社、1950(昭和25)年新春号~1952(昭和27)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 232,193 字 · 463 页

青空文庫

痴児の酔い

敵の死屍は、累々と、辻にみだれ、町を舐めつくした炎は、遠い野を焼いて行き、土民の小屋や寺や森までが煙を吐いている。

「何という脆さだ。これが強兵を誇っていた常陸勢ですぞ。いや、こちらの兵が強過ぎるのかも知れん」

「あははは、いうもおろかよ。今や、わが相馬殿の御威勢の前に、立ち得る敵があるものか」

将門の耳に、そんな声高な話が、ふと聞えて来た。

彼が、振り向いてみると、相馬軍の帷幕の将星として、自ら任じ合っている興世王や不死人や玄明などが、国庁の焼け跡に、早くも幕を張って、祝いの酒瓶をあけ、各※(二の字点、1-2-22)意気軒昂と、杯をあげている。

将門もいまそこで、一杯、勝祝いを飲み干して来たところだが、余りに、荒涼たる戦火の焼野原に対して、何か、自分のした事ではないような気もちにつつまれながら、茫然と、独りそれを眺めていたのである。

(……しまった。何も、これ程までに、やる事もなかったのに)

彼の心は、呟いていた。

淡い悔いに似たものが、心の底からにじみ出してくる。

明らかな侵略行為だ、官衙や官倉の焼打ちは、官への叛乱である。乱賊といわれても弁解の余地はない……。