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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

「あいもかわりませず連日のお運び。てまえ白玉喬も大御満悦の態とござりまする。ただいまご喝采をいただきました娘白秀英の水芸はまだほんの序の口。いたらぬ芸にはございまするが開封東京は花の都の教坊で叩きあげた本場仕込み。いささか、そんじょそこらの大道芸とは事違いまする。ご当地では初のお目見得。吉祥のご縁結び。当人も大張り切りで、精を根かぎりに一代の芸を尽してお目にかけたいといっておりますれば、ゆるゆるとひとつご観覧なあって永当永当ご贔屓のほどを乞いねがっておきまして――さて」

と、ここで口上の調子をかえ、次の芸当の筋書を述べていたが、雷横は夢か現で、あぶなく居眠りの肱を外しかけ、はっと、居場所を思い出したように、急に舞台へ、赤い眼をしいて瞠りだしていた。

すでに舞台では、花の精か、白鳥の霊か、満場、人なきような焦点に、舞い歌っているものがあった。これなん人気女優の秀英であろうか。雪の羅衣に、霞の風帯、髪には珊瑚の簪花いと愛くるしく、桜桃に似る唇、蘭の瞼。いや蘭の葉そのものの如き撓かな手ぶり足ぶり。その手には左右二つのカスタネットを秘し持ち、戦う鳥となり、柳の姿態となり、歩々戛々、鈴々抑揚、下座で吹きならす紫竹の笛にあわせ“開封竹枝”のあかぬけた舞踊の粋を誇りに誇る。