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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
花嫁の臍に毛のある桃花の郷を立ち、 枯林瓦罐寺に九紋龍と出会いのこと
花嫁の臍に毛のある桃花の郷を立ち、
枯林瓦罐寺に九紋龍と出会いのこと
奇異なる旅の子魯智深は、幾度も山に臥し、野に枕したが、野獣猛禽も恐れをなしてか、彼の寝姿と鼾声のあるところは、自然一夜の楽園と化し、なんの禍いも起らなかった。
もっとも智深は身に一トかたきの食糧を持つではなし、金銀は元より帯ぶるところにあらずだから、これを襲ってみたところで、得るものは何もありはしない。――その夕べも、腹をぺこぺこにして、やっと山中の一村に辿りついた彼だった。
「おうこの辺は、たいそう桃の多いところだな。今や桃の花ざかり。そうだ、今夜は一つそこらの桃林に寝て、武陵桃源の夢とでも洒落ようか」
――すると、鶴のごとき一人の老人。彼が立ち入りかけた桃林の傍らから出てきて。
「もしもし、お旅僧。こよいは当家にちと取り混み事がございますし、それに不慮のお怪我でもなさるといけませんから、ほかへ行ってお休みくださらんか」
「おぬしは誰だ」
「この桃花村の旧家で、劉家のあるじでございますが」
「……どうしたのだ、いくら老人にせよ、まるで粘土のような顔いろをして、いまにも泣きだしそうなその容子は」