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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

死は醒めてこの世の街に、大道芸人を見て、銭をめぐむ事

この掲陽嶺を越えれば、まもなく道はかの白楽天の“琵琶行”でも有名な潯陽江の街を見る。――そして水と空なる雄大な黄色い流れは、いわずもがな、揚子江の大河であった。

その揚子江の船乗りで、混江龍とあだ名のある李俊は、その日、仲間の童威、童猛という二人をつれて、街の方から嶺の峠路を登って来たが、

「オオ、李立の店があらあ。あそこで一杯やりながら待つとしようじゃねえか」

と、そこの嶺茶店をのぞきこみ、

「兄弟分、いるかい」

とばかり、ぞろぞろ入って来た。

亭主の李立は、垢じみた下郎頭巾に、毛ムクじゃらな両腕ムキ出しの半纒一つ、薄暗い料理場の土間口に腰かけ、毛ずねの片方を膝に組んで、何かぼんやりしていたが、

「おう兄貴か」

と、夢からさめたような顔して起って来た。

「どうしたい李立、いやに不景気ヅラしているじゃねえか。ところで、この峠の上で待つ者があるんだ。店を借りるぜ」

「ええ、ようがすとも。だがお揃いでいったい誰を待ち合わせるんで?」

「ゆうべ済州から来た奴のはなしでね、宋公明っていう人が、この江州へ流されて来るってんで、日どり、道すじをただしてみると、どうしてもここ二、三日中には、この掲陽嶺を通るはずだ。