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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

妖気、草簪の女のこと。怪風、盲母の姿を呑み去ること

妖気、草簪の女のこと。怪風、盲母の姿を呑み去ること

「野郎。――よくもおれの名を騙って、しかもおれの故郷で、追剥ぎなどしていやがったな。さあ、偽名代を支払え、真物のおれ様へ」

李逵は言いながら男の二挺斧の一挺を取って、あわやその細首を打ち落しそうにした。

男は哀号して命乞いの必死をみせた。泣いていうには、ことし九十になる老母がおり、老母を養うための出来心であったと口説く。そして追剥ぎをするほどな力や度胸がなくても、「黒旋風李逵」とさえいって脅かせば、みな金や持ち物をすてて逃げ出すので、つい面白半分にもご高名をつかって、母子二人の露命をつないでいたもので――と平蜘蛛のようにあやまりぬくのであった。

「ふうむ、おふくろがいるのか」

李逵はたじろいだ。自分も多年の不孝が詫びられ、故郷の母をひき取るために、梁山泊の仲間からひまをもらって、この故郷へ帰って来た途である。かたがた、自分の名が売れていればこそ、自分の偽者も出るのだったと考え直すと、こいつも一個の愛嬌者と堪忍されて来たことらしい。やがて彼は、銀十両を男の鼻面へ投げやって、

「やい、これをくれてやるから、とッとと失せろ。