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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

菜園番は愛す、同類の虫ケラを。 柳蔭の酒莚は呼ぶ禁軍の通り客

智深は跳び退いて、錫杖を持ち直した。

すると、夕闇を透かしていた眼と、キラとも動かない戒刀のみねから、落ちついた声が通ってきた。

「おいっ、待った。ちょっと待て」

「怯んだか行者」

「いや、さっきから少し考えていたことがある。もしやあんたは魯提轄じゃあるまいか」

「えっ。わが輩の前身を知っているおぬしは誰だ」

「やれ、あぶないところ……」

行者はすぐ戒刀を鞘にして、つかつかとその顔を近づけてきた。

「史進ですよ。渭水でお別れした九紋龍史進でさ。てまえもこんな風態だが、いや、あんたの変りようではぶつかっても分りッこはない。提轄から坊主とは、どうもえらい化けかたですな」

菜園番は愛す、同類の虫ケラを。

柳蔭の酒莚は呼ぶ禁軍の通り客

「やあ、これは奇遇だった。さても人間てやつ、どこで別れ、どこで会うやら知れぬものだな」

魯智深はいった。――九紋龍史進もまたこの奇遇を尽きない縁と興じてやまない。そして相携えつつ、もとの瓦罐寺のほうへ歩きだした。

――途々、智深は、にわか出家の花和尚となった身のいきさつを友に語り、九紋龍は渭水を去ってのち、延安や北京をさまよい、いまだに尋ねる師の王進先生にも巡り会えず、こうして枯林の廃寺に一時雨露を凌いでいたわけだ、と話す。