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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
武松、亡兄の怨みを祭って、西門慶の店に男を訪う事
が、知事はなお、煮え切らない。言を左右にするだけで、
「とにかく、二た品は一応預かって、鑑定役へ廻しておくが、武松、そちも篤と、ここのところは穏便に考え直すがよいぞ」
遮二無二、その日は彼をなだめて引き取らせた。つまり早や訴訟は却下の形である。
武松、亡兄の怨みを祭って、西門慶の店に男を訪う事
西門慶は恟々だった。さっそく役署の下僚からは内報があるし、彼自身も昨日からは、おさおさ油断はしていない。
彼の手廻しによる金力が、暮夜ひそかに、各役人の私邸をたたいて、あらゆる手を一夜に打っていたなどは、いうまでもないだろう。
果たせるかな、次の日の強訴室においては、武松の眼にも、知事の態度が従来の人とはまるで別人のような知事に見えた。
「武松。昨夜一ト晩考えて、どう分別をいたしたな」
「今さら、分別も何もございません。西門慶を召喚して、手前と白洲においての対決を、希望しているばかりです」
「それや悪い分別だ。聖賢の語にも“背後ノ言、豈ヨク信ナランヤ”とあるではないか。果物売りの小僧の言など、取上げられん」
「でも九叔から差上げられてある紫斑歴々な兄の遺骨は、なんとご覧なされますな」