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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

小張飛の名に柳は撓められ、花の 美戦士も観念の目をつむる事

粧いまでもかえている。

嵌玉のかぶと、磨銀のよろい、花の枝を繍い出した素絹の戦袍すずやかに、

「宋江とやらのおからだを戴きましょうか」

と、言い払い、ホホとその白い花顔が闇を占めて笑っているかのよう。……宋江以下、修羅という修羅の場かずをふんできた梁山泊の男どもも、思わず馬列を恟み立てて、

「や? 一丈青」

と、何とはなくぞくとした。

だが、そんな神経を持たないのもある。黒旋風の李逵だ。

「なにを、阿女っちょめが、洒落くせえ」

と、薄刃金の二丁斧をひッさげて、彼女の前へ挑みかかった。しかし、かたわら疎林のうちで、ザッと、風の通るような音がしただけで、一丈青の影は、もう李逵の目のとどく所にはいなかった。

かえって、李逵は求めもしない敵の雑兵の中に置かれ、二丁の斧は、大いに怒った。そしてそこはたちまち一団の乱戦と化した。

「後ろからも、敵が尾けてくる」

宋江は、敵の詭計を怖れた。周囲も彼へ、ここにかまわず、落ちろとすすめる。

ところが、先へ落ちて行くと、またもや行くての闇のうちから、こう美しい音声が揶揄うように響いてきた。

「逃げようとて逃がしはせぬ。――宋江とやらのお体をいただきましょうか」