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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

登州大牢破りにつづき。一まき山東落ちの事

登州大牢破りにつづき。一まき山東落ちの事

病尉遅

それは孫立の綽名だ。

いろ青白く、青粘土みたいに沈んでいるが、まなこは鯉の金瞳のごとく、黒漆のアゴ髯をそよがせ、身のたけすぐれ、よく強弓をひき、つねに持つ緋房かざりの一鎗も伊達ではないと、城内はおろか、守備隊の中でも、こわがられている孫提轄だ。

弟の女房が危篤と聞いて、

「わからないもんだな。鬼のかくらんということはあるが」

と、妻を車に乗せ、自身は騎馬で、兵卒十人ばかりを供につれ、急遽、休暇願いを出して、明けがた十里牌へ急いで来た。

だが、弟の店へついて、奥へ迎えられてみると、なんと出て来たのが危篤のはずなその※大虫で、弟の孫新もけろりとしたもの。――孫立夫婦は、呆ッ気にとられるよりはまず腹が立った。

「おい、おばさん。孫新もだ。悪洒落はいい加減にして貰いたいな。こっちは官の勤務が忙しい体なんだ」

「なんともすみません。嘘もよほどな口実でなければ、すぐ来てはくださるまいと思いましたので」

「ひとを驚かすにも程があらあ。いったい何のためにこんなまねして呼んだのだ。俺ばかりか妻までを」

「じつは兄さん。不慮の災難が持ち上がッて、この弟夫婦はよんどころなく店を畳み、不日、梁山泊へ仲間入りいたします」