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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

祝氏の三傑「時報ノ鶏」を蚤に食われて大いに怒ること

何もかも、物蔭で見ていたんだな」

「いけませんでしたか。――これから梁山泊へ落ちのびようッていうご相談事も、ついそこで残らず聞いてしまいましたが」

「いまさら、いけねえといってみたって、仕方がねえや。……石秀、どうしたもんだろう。この蚤男を」

「蚤男とは、巧く言いなすったな。一体何者です、その男は」

そこで楊雄が、こう説明した。

――昨日までの職掌柄で、自分も多年いろんな囚人を手がけて来たが、この時遷アダ名を鼓上蚤という蚤みたいな人間は、めったに知らない。

生れは、高唐州というがもとより前身不詳の無宿者で、よく捕まって薊州の牢屋へ入って来るが、すぐにまた牢から出て行く。――なぜなれば、たいがい軽い微罪だからで、ほかの罪人のように、被害者も訴え手もないのである。

じゃあ何で食ってるかというと、あちこちの墳墓を掘って、殉葬(死者に副えて埋めた生前の遺愛品)の珠だの金銀を見つけては、市でこかしているものらしい。もちろんそれとて重罪だが、現場を見つかった例しはないので、ほかの微罪で捕まえて来る。ところが牢にいても牢中の愛嬌者だし、また、牢舎に飽きると、いつのまにか、自分の意志でぷいとどこかへ消えてしまう。