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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
風来の一怪児、東渓村に宿命星の宿業を齎すこと
それでこの人選には、わしも全く慎重にならざるを得んのじゃよ……」
「ほんに、そう伺うと、人はないものかも知れませんね。けれど今年こそは、お父君に糠よろこびをおさせしては、あなたとしても、申しわけがないでしょう」
「……まあ待て。まだ幾十日の間もあること。全然、心当りの人間がないわけでもない。充分、信用がおける人間かどうか。ま、もう少しみていよう」
いま、梁中書の腹にあるただ一人の人物――その候補者とは、いうまでもなく、かの青面獣の楊志以外な者ではなかった。
風来の一怪児、東渓村に宿命星の宿業を齎すこと
近ごろ。山東は済州の城県に、あたらしく赴任して来た県知事がある。
姓は“時”名は“文彬”。県民の評判はたいへんよかった。現下世は腐敗の極といわれているものの、なお多くの中には良吏もいたのである。非理曲直すこぶる公明で、私の暇には蘭を愛し琴を奏で書もよく読むといったような文彬だった。
「――自分がこの地へ着任いらい、まだ何も見るべき行政はしていないが、まず県下の治安を第一に確立したい」
彼は或る日、県(県は日本の郡単位)の庁堂の壁に、民治の主旨をかかげて、その日、公庭に集まった全吏員にこう告げていた。