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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
地下室の窮鳥に、再生の銅鈴が友情を告げて鳴ること
地下室の窮鳥に、再生の銅鈴が友情を告げて鳴ること
「なんだなんだ。人殺しだって」
附近には朝市も立っている。それに軒並みの商家、往来の男女、たちまちまわりは黒山のような人だかりとなった。
中にはすぐ飛んできた目明しの顔もみえたが、しかし、閻婆に手を貸そうとする者はない。ただ怪しみながらゲラゲラ笑っているばかりである。――いかに婆さんが「こいつは、わたしの娘を殺した人殺しだ」と衆へ向って訴えても、町中知らぬはない温厚人の宋江を目して犯罪人と信じる風はちッともないのだ。かえってこれは飛んだ宋江の迷惑事と察して同情をよせ、逆に閻婆の狂態を弥次り仆す有様だった。
それさえあるに、不意に群集を割って飛び込んできた一人の男は、いきなり宋江の体から婆さんをもぎ離してイヤというほどその頬げたを撲り仆した。そして猛る閻婆を、もういちど蹴離しながら、
「さ、旦那。こんな気狂い婆におかまいなく、早く行っておしまいなせえ。あとは唐牛児がひきうけましたから」
と、追い立てた。
まさにこれは宋江の平常の人徳がしからしめたもの。諺にも――好キ人ノ難ハ人ミナ惜シミ、好悪ニ災ナキハ人ミナ訝カル――とある通り、天の救いといえるものか。