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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

「李逵じゃお話し相手にならねえと仰っしゃるんで」

「うるさいのう……。ひとが物を思案しているのに。ああ、どうしても、これはひとつ、わし自身、高唐州まで出向いてゆくしかあるまいなあ」

李逵はそれを小耳にはさむと、窓際の踏み台を降り、庭から廊へ廻って、のそっと柴進の部屋へ首を突っ込んで来た。

狡獣は人の名園を窺い。山軍は泊を出て懲らしめを狙うこと

もちろん誇張したことばだが――常ニ家ニ飼ウ食客三千――といったような野の名門、柴家のことである。日ごろ居候はめずらしくないが、けだし李逵のごとき居候は珍しい。まるで黒面猿を家に置いているようなものだった。

ゆるしも待たず、あるじ柴進の室へ闖入して来た彼は、柴進の身に降って湧いた急な旅行がどんな心配事であるかなどは一こうに無頓着で、

「ほい、ありがてえ。お供ができる!」

と、まずまず自分を祝福してから言ったものである。

「ねえ大人。大人が高唐州へお旅立ちなら、あっしだって、いや、あっしもすぐ身支度にかからなくっちゃなりません。ご出発は今日中ですか。それとも明朝で?」

「なに。たれが連れて行くといった。物見遊山とはわけが違うわ」