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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
狡獣は人の名園を窺い。山軍は泊を出て懲らしめを狙うこと
「でも大人の側を離れたくねえんですよ。それにご当家へ預けられてからもう五十日。あれッきり李逵は一歩だッて門の外を踏んでもいねえ。ぜひ連れて行っておくんなさい」
「ちッ、ひとの心配も知りおらんで」
柴進は、舌打ちした。それどころではないといった憂色なのだ。そしてさっそくその日、旅途についた。荷持ち男三人、家来七騎。それへ交じって黒旋風李逵もついに供人として従いて行った。
旅は半月余りつづいた。やがて高唐州に着く。その城内街もずっと北郊に一叢林の大邸宅があった。土地でも著名な名園でまた名族でもある柴皇城の家である。――が、そこで馬を降りるやいな、柴進は、
「あっ、まに合わなかった。叔父君は早や世を去ったか」
と、茫然、希望のむなしさに、涙となった。門は喪に閉じられていたのである。すなわち、柴進の旅は、叔父皇城の危篤の報に急いで来たものだが、こう早くとは、日ごろ強健な叔父だっただけに、よほど意外であったらしい。
だが、あとで聞けば、皇城の死は、やはりただ事ではなかった。彼を待ちかねていた皇城の妻や一族は、その夜、柴進にむかって、次のようないきさつを涙ながら物語った。