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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
「来たか」
と、剣戟の白いさざ波立てて、一瞬は揺らいだが、びくともしたさまではない。
対陣半日。はやくも気みじかな秦明は、馬を躍らせて、敵前へ立ち、
「ここらは生きた人間のいる所。なまぬるい都の風は吹いておらんぞ。何しに来たか、貢税肥りの盗ッ人めら」
「やあ、賊の一匹か」
と、官軍三大将のひとり韓滔は、その怒りを白馬に乗せ、くろがねの鎧、朱纓の馬かざり、手に長槍をかまえて、
「うごくな、賊」
と突ッかけて来た。
将と将との一騎討は、賭け物である。賭けにはそれ以外な者の手出しはゆるされない。兵はその間、かたずをのんで勝負ノ場をただ見まもっているだけなのだ。声援として折々には両軍どッち側からも、わあああ、という喊声だけは風のように巻きあがる。
勝負は果てしなく見えた。
いや韓滔には、百勝将軍のあだ名もあるくせに、どうもそろそろあぶなく見える。りんりたる汗が額から眼にながれている容子など、こころもとない。
「韓滔、さがれ。その相手、おれがもらった」
代って出たのは、主将呼延灼だ。
白蹄烏毛の名馬、“烏騅”が泊軍の目をひいたこというまでもない。
二番手にいた林冲はそれを見るなり惚れ惚れした。