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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

わずかに、宋江と呉用とは無事をえていた。しかし、敗陣、寂として声なしの有様である。林冲、秦明、病尉遅などは、なぐさめる言葉もなく、ただ残念そうに、その前で首を垂れていた。

「軍師、勝敗は兵家の常とか、敵を知れば、また勝目を取る智略も出ようというものじゃございませんか。宋先生も、どうぞお心をとり直しなすって」

「林冲。よく言ってくれた。しかしこの敗れは梁山泊はじめての傷手だ。みなにすまん」

「兵略の誤算でしょうか」

「いや、一に連環馬軍の機動力を知らなかったことにある」

「いったいその馬軍というのはどういう性能の騎兵なので?」

「馬自体が鉄甲の戦車だといってよい。三千の騎兵を横列に敷き、三十頭ずつを一ト組みに、鉄の連環でつなぎ合い、自信満々、二十隊三十隊で押してくる」

「それだけなら何も」

「そうだ、それだけなら驚くに足らん。ところが、討ちとった馬を調べてみたら、馬の一頭一頭、その全身は細かい網鎖でつつまれ、すべて蹄のほかは鎧われておる。騎上の兵もまた然りで、面にまで薄金の面頬という物をかぶり、全身、矢も立たぬ不死身の武装――。どうもそんなぜいたくな武装は、禁軍ならでは三千もの武者にほどこし難い。