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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
ただ星のまたたきだけが、一個の黒い怪しい物の行動を見せていた。
その時遷の影も、いつのまにか、木の上にはない。枝から枝を這って、屋根へへばりつき、そこの二階の破風を壊して、もう天井裏にいたのである。
耳を澄ます。あるじの徐寧らしき人の声がする。妻、女中。階下と階上とを行き交う足音。どうもここの家族は夜更かしらしい。
「はてな? いまから飯の支度などいいつけているぞ」
時遷。こいつはおかしいと、考え直した。今夜は瀬ぶみ、どっちみち二晩三晩は、通うつもりでいたのだが、家族はこれから寝るのでなく、いま起きたような様子なのだ。……としたら、ひょッとして、今夜が機会になるかもしれない。さきの不運、こっちの天運と、時遷はなおも息をこらし、天井裏を注意ぶかく、撫で、這い、そして隙間をさがして覗いてみると、
「……ふ、ふ、ふ。……あるぜ、あるぜ。朱革の鎧櫃が、ちゃんと、天井に吊ッてあら。帰命頂来、鼻の先だよ」
と、思わず北叟笑みして、天性の一種声なき快感にくすぐられていた。
「おや? ……」と、下では夫妻が天井を見上げ。
「なんだろ? へんにゴソゴソしなかったかい」
「いいえ、べつに、……鼠でしょう」