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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
かくて時遷と湯隆との打合せは、事前に出来ていたのである。――すなわち、時遷は空櫃を負って、梁山泊までの陸路をただの旅人のように旅籠泊りをかさねて行く。泊り先の宿屋の軒には、かならず目印として、白墨でどこかへ丸を描いて残しておく。途中で休んだ腰かけ茶屋にも同様な印を残す。――というだけの段取りだった。
つまるところ、湯隆が徐寧の家を訪ねたのは、すでにこれらの諜し合せをすまし、時遷とも一時別れ、さてあくる日、なに食わぬ顔して城内へ入って行った午後のことだったわけなのだ。そして徐寧の誘き出しも、まずは、ここにまんまと目的の半ばを達しかけていたもの――。
あれから二人は城外の街道を、東へ東へ、急いでいた。湯隆の目はたえず、白い丸印、白い丸印。
「あ。あった……」
「隆さん。何があった?」
「いえなに、その……茶店がですよ。あんまり腹が減ってきたので」
「じゃあ、一ト息つこうか」
ずっと入って、腹ふせぎに軽い物で一杯飲む。その間に、湯隆が茶店の亭主にこう訊ねたものである。
「じいさん。つかねえことを訊くようだが、眼のするどい、ひょろッと痩せた野郎が、朱革の鎧櫃を背負って通るのを見かけなかったかい」